(1)事業概要

平成20年告示の学習指導要領から中学校の体育分野では,武道・ダンスを含めた全領域が必修となった.新学習指導要領においても,引き続き必修領域となっている.しかし,武道領域においては令和元年度及び2年度のスポーツ庁委託事業による全国調査によると,「保健体育の授業は楽しいですか」の質問に約9割が肯定的な回答を示している.一方で「武道の授業は楽しいですか」の質問に肯定的に回答した生徒の割合は約6~7割(柔道,剣道,相撲により異なる)であった.このことは,武道とスポーツの特性の違いを踏まえつつも,武道授業においても生徒に「楽しい」と思わせるような工夫が求められていると考えられる.また,ダンス領域においても,令和元年度及び2年度のスポーツ庁武道等指導充実・資質向上支援事業「ダンス指導成果の検証」の調査から,中学校の保健体育科教員の多くが,ダンス授業の指導内容や指導方法等に不安を抱えながらも授業を実施している状況が明らかとなっている(栫ほか,2020;2021).学習指導要領の内容理解を進め,生涯スポーツに繋がるダンス授業の実施を進めるためにも,授業で活用できる教材や動画素材等の提供を進めていく必要性が示唆されている.さらに,令和元年度体力・運動能力,運動習慣等調査においては,小中学生の体力の低下が見られ,昨年度の新型コロナウイルス感染症の影響による運動不足(運動時間の減少)も懸念されている.
鹿屋体育大学では,かねてから鹿児島県大隅地区の地域住民の健康づくりや生涯スポーツの普及を目的として,様々な組織との連携を図りながら多くの取組を行っている.中でも柔道においては,近隣中学校の柔道授業への学生派遣事業,剣道においては近隣中学校に部活動の外部指導者としての学生派遣や地域のスポーツ少年団への学生派遣と指導をおこなってきた.また,なぎなたについては,大学生と県内高校生との合同練習による交流,さらに,ダンスに関しても,大学での教育研究を通して得た知見を,指導者研修会や授業の指導助言,指導補助の形で提供している.それぞれの事業では,一定の成果は見られている.今後はさらに,地域の学校における武道・ダンス・体力づくりなどの体育指導の包括的な充実に向け,大学を拠点とした体育授業や運動の指導支援体制を構築・検証し,他の大学や地域でも取り組めるモデル例として提案する.

① 中学校の柔道・剣道授業等への学生派遣事業の効果検証
生徒との年齢が近く,柔道や剣道の専門的知識・技能を有する大学生を中学校の武道授業の授業協力者として派遣することによってもたらされる,生徒の知識,技能レベル,関心・意欲等の変化や,教員,大学生の意識・意欲の変化も捉えて成果と課題を明らかにする.また,大学の実技授業内でのICT活用やハイブリッド授業(オンライン授業と対面授業の組合せ)のノウハウ等を各中学校のニーズに合わせて提供し,成果と課題を明らかにする.

② 鹿児島県内の中学校における武道授業の実施状況調査
県内の中学校での武道授業の実施状況について,アンケート調査を実施し,現状の課題とその解決方法を提案する.

③ 児童生徒の運動時間確保に向けた教材・場の改善と指導者派遣の効果検証
中学校における生徒の運動時間確保に向けた取組の工夫・改善を図るため,各種運動の専門的知識・技能を有する大学生等を授業内外の取組への協力者として派遣する.このことによってもたらされる成果と課題を明らかにする.

④ ダンス授業の指導方法及び教材の提供に関する事例研究
中学校において実施率の高い「現代的なリズムのダンス」と「創作ダンス」の新学習指導要領に基づいた授業展開を行うための指導方法・教材,動画素材を各中学校に提供し,活用事例をもとに成果と課題を明らかにする.また,大学の実技授業内でのICT活用のノウハウを各中学校のニーズに合わせて提供し,成果と課題を明らかにする.

(2)実施体制

1)人員・組織体制
ワーキンググループの設置:武道実践・コーチング学,体育科教育,舞踊教育学を専門とする研究者から組織する

代 表 者 :栫ちか子(鹿屋体育大学 講師):保健体育科教育学,舞踊教育学

共同研究者:前阪茂樹(鹿屋体育大学 教授・学長補佐):剣道
金高宏文(鹿屋体育大学 教授・教育企画・評価室長):スポーツ運動学,コーチング学
小澤雄二(鹿屋体育大学 教授):柔道
北村尚浩(鹿屋体育大学 教授):体育・スポーツ社会学
浜田幸史(鹿屋体育大学 准教授):保健体育科教育学

2)有識者・協力者会議(関係各者との連携)
・鹿屋体育大学と鹿屋市との連携協議会
委員:鹿屋市長,副市長,教育長,学長,理事,事務局長
・実施協力校教員
・外部の保健体育科教育の専門家

3)実践研究組織
①実施協力:大隅教育事務所管内教育委員会(予定)
②実施協力校:大隅教育事務所管内中学校(予定)
③集計・分析等協力:鹿屋体育大学学部生・大学院生

スポーツ庁委託事業